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管理人の萌や日常を徒然なるままに。。。
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ちょばってやる!!!


つづきからどうぞ。
パラレルです。
携帯サイトでやってる別れたい症候群の趙馬。
の、少し昔の話。



その日、夕焼けを見て思った。
駄目だと、別れようと思った。

唐突だったし、理由は無かった。
待てと言われただけで、付き合っているわけではない。
一年、一年待っていてほしいと言われた。

告白されて、浮かれたけれど、嬉しかったけれど、
けれど日にちが経つに連れて、
毎日かかってくる電話が、
遠い声が、
上手く相槌さえ打てない自分が、
もう駄目だと呼びかける。


施設長に無理を言って頼んだ一人暮らし。
施設を出る最後の数ヶ月だけの、学生の間だけの一人暮らし。
施設にいるのは辛かった。



あの施設はどこもかしこも、趙雲の記憶ばかりだ。





家に帰って冷たいフローリング。
狭い一部屋の真ん中に大兄からもらった雀卓がわりの炬燵机。
ベッド、タンス、それくらいしかない部屋。
机の上に写真立。

その中には一つの写真。
別に、二人で写った写真じゃない。

何時もの癖で、
ベッドを背に床に腰を下ろした。
ポケットでつかえた携帯を机に放り出すと、
チカチカと着信を伝える青い光が点滅している。
写真立の横を通り過ぎて、
点滅を静かに繰り返す携帯が真ん中より向こうでとまる。


電話には、もう二週間くらい、出ていない。


暫く、写真を見ていた。
皆と取った写真、というそれ以外に形容が無い。
どんな時に取ったかも忘れた。
けれど、多分施設に引き取られたばかりの頃だろう。

真ん中に趙雲がいた。
記憶の限り、趙雲はずっと年長者だった。
小さい子は順番に貰い手がついたのに、
趙雲は性格が良くても頭が良くても貰い手がいなかった。
大きすぎるから、と、彼は言っていたけれど。

だから、何時も写真を撮るときは皆の真ん中にいる。
沢山の妹や弟たちに囲まれて、
その中で無理やり、彼に手を取られて一緒に写るぶすくれた自分がいる。


この写真から何年たったのだろう。
彼に好きだと言われた。
一年、その間に絶対、好きにさせてみせるから。
だから待っていて欲しいと言われた。

彼があの施設を出てから、
本当に毎日、電話がかかってくる。
たわいない会話に、たわいない挨拶に、
本当に泣きたくなるほど暖かくなる。

電話が切れた後の静けさが怖いほどに。


本当は、待たなくても好きだ。
一年なんかいらないくらいすぐ、好きになった。

でも、彼は離れた。
福岡の支社へ出向に。
だから冷静になった。


お前と笑い続けられるような、そんな世界はどこにも無いんだ。
電話が切れるように、会話が切れるように、沈黙が降りるように。

続く、なんてない。


写真立を持ち上げた。
この写真立も、きっと誰かからの寄付だったんだろう。
施設に来る前は誰かの幸せを入れていたのだろう。
いらなくなった幸せが取り出されて、
施設に運ばれてきたのだろう。

この写真を、この写真立に入れてくれたあの新しい父は、
何も言わずにこれを俺に渡した。
家族を事故で亡くしたばかりの俺に、
新しい家族なんて辛いし気持ち悪いだけだったけれど。
けれど、ずっとこれが支えだった。

繋がった、たった一つの手だけが。


フレームを裏返して、止め具を外して、
中の幸せを取り出す。

光沢を失った古い写真は、
思ったより簡単に破くことが出来た。
カラオケの歌の背景で流れてるような、
失恋した女が写真をヒステリックに破くようなことは出来なかった。

ゆっくりゆっくり破けていく。
自分がしている行為を別の自分が不思議そうに見ているような間隔。

破けてしまった、あ、また破けていく。
色の着いた表面と、浦上の白い部分が不規則な淵を作った。
手の中で何度も何度も破いて小さくなって……。


ブブ、ブーン、ブーン…


机が揺れた。
携帯がまた着信を告げている。
無意識に手に取ろうとして、
【趙雲】という名前が見えた。
手を開こうとして、手の中にある細切れの写真が見えた。
ばらばらの顔、ばらばらの家族、ばらばらの…けれど、
しっかり繋がれた手だけが、見えて。


初めて、涙が出た。





「馬超!」
「ッ」


汗だくの、スーツを着た見慣れない趙雲が、
何の前触れもなく携帯を片手にそこにいる。

いるはずが無いとか、福岡はどれだけ遠いのかとか、
スーツが似合わないとか、
携帯がまだ鳴りっぱなしだとか、
そんなことは全然気にならなくて。


「写真が」

「破ってしまった・・・」


よかったと、
何か事故にあったとか病気になったとか
もっともっと悪いことをいっぱい考えていてもたってもいられなくて、
新幹線と電車を乗り継いで来てしまったと、
でも趙雲は…笑いながら言った。

怒ればいい。
責めればいいのに。

彼は笑っていて。


「破けてしまった」


抱きしめられても、
手の中の小さな写真の欠片を離せなくて、抱き返せなくて。

遠いのに、暖かくて。
涙が止まらなかった。









それから趙雲は、破いた理由なんて何も聞かないで、
大丈夫、元に戻ると、
開こうとしない俺の手を炬燵机でゆっくり開かせた。

スーツの上着を脱いで、
腕まくりして、
テープの粘着を上にして机に貼って、
大丈夫、元に戻るよとまた言った。
笑って言うから、笑い返せなかった。

二人で難解なパズルを、
四時間もかかって解いた。
本当に小さくちぎったから、
最後は箸まで持ち出して張り合わせた。


まるで千切り絵のようになった写真が、
一つの欠片も失うことなくフレームに戻ったとき。







彼は・・・キスを、した。

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