管理人の萌や日常を徒然なるままに。。。
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死にネタです。
大丈夫な方は続きからどうぞ。
大丈夫な方は続きからどうぞ。
彼のことは、今は亡き従兄から聞いていた。
戦場で見られる烈火の様な錦馬超、
その影のように屋敷でいる時は言葉が少なかった。
まるで散り行くようなかさついた言の葉の中、
微かにまぎれた季節はずれの暖かさに、
おやと嬉しく思ったことは入蜀してすぐの事。
けれど彼は泣かなかった。
情を通わせた馬超の葬儀で、
ただの一滴も涙を見せなかった。
なんて薄情な男だと、
従兄のいなくなった心の虚空に
黒々とした感情が馬岱の中に湧いた。
影はまだ長く伸び、引きずっている。
そんな時だった。
まるで何でもない、白と黒の日々だった。
彼の屋敷の使用人が助けを求めに駆け込んできたのは。
半ば無理やり趙雲邸に招かれた馬岱が目にしたのは、
散乱した部屋の中央にぽつりと佇む屋敷の主だった。
「何を、しておられる……」
元々物は少なかったであろうその部屋は、
棚のものが全て引き出され、
服は破られ、
元は何であったかさえわからない木片や陶の破片が散らばっている。
あきれたような声を出した馬岱に、
まるで静まり返った顔をゆっくりと向ける。
趙雲の表情は忌まわしい葬儀の日のそれと変わらなかった。
「居なくなったのだ」
言うと、
趙雲は手にしていた白い陶器の壷から力を抜いた。
支えを失った美しく丸い陶器は、
彼の足元で綺麗な音を立てて砕け散る。
「此れに触れた彼は」
趙雲には、足元の破片を気にする様子はない。
何かに語りかけるように呟いては、
何かを追っているように、
ゆっくりと顔を部屋のいずこかに移し、
無頓着に瓦礫を作っていく。
「なのに、何故思い出だけが或るのか」
「趙雲……、どの」
「彼は居ないのに、何故ここに残っている」
「趙雲殿……ッ」
拾い上げた引き出しを壁に投げつける趙雲に、
後ろから飛び掛った。
脱力しきった体からは信じられないような動きを、
羽交い絞めにして何とか押さえ込んで初めて……。
馬岱は、趙雲が泣いていることを知った。
「もう、若はいませぬッ!」
「馬岱殿」
「趙雲殿、どうか」
「彼が、笑うのだ…居ないのに……私の中で」
涙などない、けれど、彼は泣いているのだ。
「綺麗に、笑うのだ」
馬超は死んだ。
馬超の葬儀で、涙の一つも流さぬ彼の情人を恨んだ。
なんて酷い男だと。
嗚呼、けれど。
従兄のなんと酷いことだろう。
「どうして、彼が居ないのに、彼の記憶は死なぬのだろう」
「若は…」
なんて酷い、男だ
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