管理人の萌や日常を徒然なるままに。。。
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歩いていた。
誰かは走っていたというかも知れない。
けれど確かに、折れは俺の人生をのんびりと歩いていた。
かけがえの無い日常も、
駆け抜けた戦場も、
引換に砕けた命も、
のんびりと……忘れぬように目に焼き付けてきた。
結果、俺は排除されかけている。
乱世に未練がないわけではない。
ただ、この乱世に俺は不要だと思った。
それだけだ。
それは俺の歩みと共にゆっくりと蝕んでいった。
ここに俺は必要ないという意識に呼応して、
川が土を削り取るように殺していく。
俺の身体とはいえ、気が効き過ぎだ。
久しく見ていない太陽が、窓から射し込んでいた。
たったそれだけの切欠で、
俺は今、散歩というものをしている。
屋敷の裏の細道だ。
木々の影が落ちて足元に色はない。
小さな砂粒が、一段と濃い影を落とすだけだ。
光に導かれて外に出たはずが、
鬱々とした暗闇に視界を埋め尽くされている。
俺が歩くと黒の中で砂粒がこすれ合い、
嫌な音を伝えてきた。
もう帰ろうかと、足を止めた時。
まるで見計らったように声をかけられる。
振り返らずにそのまま立っていると、
鎧姿の趙雲が肩を並べてきた。
かすかに腰を抱かれ、共に歩き出す。
誘った腕は、すぐに離れていった。
「雑務は終わったのか」
「終わった」
「調練は」
「岱がしている」
「調子はよさそうだな」
最後は質問ではなく、
まるで答えは聞きたくないとでも言うように断定された。
少し視線を上げてみる。
横目で伺えば、趙雲の視線と交わった。
「悪くはない」
瞬きと共に視線を前に戻す。
お前の欲しい言葉など、もうくれてやることはできない。
そう、教えておかねばならない。
視線を変えて、風景が変わった。
どうやら自分が歩いていた細道は、
小川に沿って作られていたらしい。
川面が光を反射してちらちらと視界で遊んでいた。
小さな土手には青々とした草が、
高く低くと生え伸びている。
真っ黒だと思っていた細道は、
木々に遮られてわずかに残った光を受け
まだらに長く続いていた。
「なるほど」
「何か?」
「貴公のお陰で見たかったものが見られた」
影を落とした草木は、それでも緑を香らせている。
光の及ばぬ水辺でも、川面は流れを楽しんでいた。
見える世界とはこうも変わるものなのか。
知らずに身体に入っていた力が抜ける。
するとすぐに、身体が高く宙に浮いた。
慌ててしがみついたのは趙雲の頭で、
どうやら童のように担ぎ上げられている。
「此処からの世界はお前の想像よりもっと広い」
「お前も、気をきかせ過ぎだ」
彼の肩に担がれて見上げた空は、
いつもより近く、いつもより蒼かった。
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